アルベルトの「アルパルガータ」

出現中に起きた出来事の中で、村人たちが最も注目したことのひとつに、出現中の少女たちの走る速さがある。山地に暮らす他の少女たちと同じく働いていた(訳注:当時は子供たちも家業の畜産業などの作業を担うのが当然であった)彼女たちは普通に走るのだが、脱魂状態を抜けると、他の誰よりも速いということはなかった。ところが脱魂状態に入ると、信じがたいほどに速く走ったのである。大げさな素振りで走るわけではなく、普通の歩幅で走っているように見えた。足が地面に着いているのだから、飛んでいるわけでもない。村で一番若くて体格の良い少年たちでさえ、彼女らのペースに付いていくのは不可能であった。やっと追いついたと思ったら、少女たちはまるで何の努力もしなかったかのようなのに、皆は汗だくで息も絶え絶えであった。それどころか、彼女たちは石ころや泥、凸凹でつまずきやすい地面を見ることもなしに走っていた。彼女たちの頭は常に幻を見上げていたのである。

アルベルト・マゾンは、体力の絶頂期にある青年だった。村で一番の走者として有名だった。他の住居に住む近所の人たちが、パンや塩漬けイワシなどの保存食品を買いに村に下りてくると、少女たちの走るスピードが速くて、誰もついていけないことを話しながら帰ってきた。アルベルトはそれはおかしいと思い、ある日妻にこう言った。「マノリータ、僕のアルパルガータを用意してくれ。今夜は彼女たちと一緒に走るんだ」。アルパルガータとは、ガラバンダルで夏期によく見られるエスパルト草だけでできた靴の一種である。ガラバンダルでは通常、誰もが木靴──寒さと泥から足を守る素朴な木靴──を履くが、走るためには「アルパルガータ」が最適だったのだ。

その夜、彼女たちはすでに二回、聖母からの内的な呼びかけを受けていた。今にも脱魂状態になり、家を出て行きそうであった。アルベルトはロリの家の前で、アルパルガータをしっかり足に結んで、走る準備をして待っていた。ロリの父セフェリーノは彼を見るなり、「アルパルガータをしっかり結んでおけよ、これから必要になるからな」と言った。アルベルトは自信満々に答えた。「何のために?」セフェリーノは冗談めかして「君が負けるからだよ」と言った。アルベルトは答えた。「それはどうかな」

少女たちが家を出ていく音で二人の会話は中断された。アルベルトは全力で走り出したが、ロサリトの家(セフェリーノの家から6メートルほど)まで来たところで、少女たちを見失った。彼女たちはすでに、村はずれのアヴェリーナの家を通り過ぎ、「見える聖体の奇跡」が起こった場所の近くまで来ていたのだ。

アルベルトはまっすぐで気高い心を持っていたので、自分が敗北したことを認めるのに問題はなかった。後に、彼にはっきりとわかったことは、ひとたび脱魂状態に入った少女たちの身体は、通常の人間の限界を越える能力を発揮しているということだった。それは一度や二度のことではなく、すべての出現の中で起こった。村人たちが「奇跡? 私たちは毎晩、まごうことなき奇跡を見たんだよ」と語るゆえんである。

イタリアのガラバンダルのサイトの記事 Alberto’s Alpargatas より抜粋して翻訳